「赤ちゃんは、どこから来るの?」
子どもから突然聞かれて、どう答えたらよいのか迷ったことはありませんか。
性について話すのは、まだ早いのではないか。どこまで説明すればよいのか。かえって興味を持たせてしまわないか――。
そう戸惑うのは、私たち親世代の多くも、家庭で性について十分に教わる機会がなかったからかもしれません。
けれど性教育は、体の仕組みや性交について教えることだけを指すものではありません。
自分の心と体を知ること。自分の気持ちを大切にすること。そして、自分と同じように相手の心や体も大切にすること。
国際機関が示す性教育の指針にも、人間関係や感情、人権、安全、健康など、幅広い内容が含まれています。日本でも「生命(いのち)の安全教育」を通して、自分と相手を尊重することの大切さが伝えられています。
今回は、「フェムケアを日本の文化にしたい」という想いのもと、性教育の講演やフェムケアの啓発活動に取り組む朝倉愛さんに、家庭で始める性教育についてお話を伺いました。
この記事の目次
性教育は、体の仕組みだけを教えるものではない
「性教育」と聞くと、生殖や体の仕組みを教えることを思い浮かべる人も多いかもしれません。
けれど、朝倉さんが性教育を通して伝えたいのは、体の知識だけではないといいます。
自分の体には大切な場所があること。
自分が嫌だと感じたときには、その気持ちを伝えてよいこと。
そして、自分の気持ちと同じように、相手の気持ちや体も大切にすること。
性教育は、こうした心の部分にもつながっていると、朝倉さんは考えています。
子どもが自分の心と体について知ることは、「自分は大切な存在である」と感じるための一つのきっかけになります。
怖いことから身を守るためだけに伝えるのではなく、
「あなたの心と体は、とても大切なものだよ」
という愛情を伝えることから、家庭での性教育は始められるのかもしれません。
親も教わってこなかった。だから、分からなくて当然
子どもに性について聞かれたとき、私たち大人が答えに迷ってしまうのは、決して不自然なことではありません。
親自身も、子どものころに性について話す機会がほとんどなかったり、話題にしてはいけないものとして育ってきたりした場合があります。
教わっていないことを、自分の子どもに突然説明しようとしても、言葉が見つからないのは当然です。

朝倉さんは、親がすべてを完璧に説明できなくてもよいと話します。
大切なのは、子どもの質問を否定したり、ごまかしたりせず、まずは受け止めること。
すぐに答えられない場合には、
「いい質問だね。大切なことだから、一緒に調べてみよう」
と伝える方法もあります。
親が一方的に教えるのではなく、子どもと一緒に学び直していく。そう考えると、性教育への構えが少しやわらぐのではないでしょうか。
子どもから聞かれたら、年齢や理解に合った言葉で
「赤ちゃんは、どこから来るの?」
「男の子と女の子の体は、どうして違うの?」
子どもは、日常のなかで感じた疑問を、とても素直な言葉で尋ねてきます。
朝倉さんは、子どもが知りたいと思ったことを、そのときの年齢や理解に合った言葉で伝えることが大切だと考えています。
一度にすべてを詳しく説明する必要はありません。
子どもが今、何を知りたくて質問しているのかを確かめながら、その時点で理解できる範囲の言葉を選びます。
国際的な指針でも、性に関する学びは、年齢や発達段階に応じて、以前の学びに少しずつ積み重ねながら繰り返し伝えていくものとされています。
言葉だけで説明するのが難しいときには、絵本などを活用するのも一つの方法です。絵を一緒に見ながら話すことで、親にとっても言葉を選びやすくなります。

性についての話を、一度きりの特別な「教育」にしなくてもよいのです。
子どもの成長に合わせて、日々の会話のなかで少しずつ伝えていく。その積み重ねが、親子で心や体について話せる関係につながっていきます。
お風呂や毎日の会話も、心と体について話すきっかけに
家庭で性教育を始めるために、特別な時間や難しい教材を準備しなければならないわけではありません。
たとえば、親子で一緒に入浴する習慣のある家庭では、お風呂の時間も、自分の体について話すきっかけの一つになります。
ただし、お風呂や着替えは、子どもの体に触れる場面でもあります。
体を洗ったり着替えを手伝ったりするときには、「これから洗うね」「着替えを手伝うね」と声をかけること。子どもが「自分でやりたい」「一人で入りたい」という気持ちを示したときには、成長に応じてその意思を尊重することも大切です。
また、入浴中や着替え中の写真・動画を撮ったり、他の人へ共有したりすることは避けましょう。
体には一つひとつ名前があり、その働きを知ることは、自分の体を大切にすることにつながります。幼児期の呼び方については、家庭でなじみのある言い方を使っても構いません。
そのうえで、水着で隠れる部分と口は「プライベートゾーン」と呼ばれ、必要な場合を除いて、自分の同意なく他の人が見たり触ったりしてはいけない大切な場所だと伝えます。
「必要な場合」とは、医師の診察や、小さい子どもの着替え・入浴などを保護者や支援者が手伝う場合です。そのようなときも、何をするのかを子どもへ説明し、声をかけることが大切です。
また、大切なのはプライベートゾーンだけではありません。体はどこも大切であり、相手の体も同じように大切です。誰かの体に触れたいときには「触ってもいい?」と確かめることも、日々のなかで伝えていきます。
こうした話は、子どもに自分で身を守る責任を負わせるためのものではありません。
もし嫌なことをされたときに「嫌だ」と言えなかったとしても、その場から逃げられなかったとしても、子どもは決して悪くありません。言えなかったことは、同意したことにもなりません。
「恥ずかしい場所」「汚い場所」としてではなく、「あなたの大切な場所」として、怖がらせない言葉で伝えることが大切です。
「嫌だった」「怖かった」と話してくれたときに
子どもが「嫌だった」「怖かった」「なんとなく変だと思った」と話してきたときには、まずその気持ちを受け止めます。
できるだけ冷静に話を聞き、
「話してくれてありがとう」
「あなたは悪くないよ」

と伝えることが大切です。
「なぜ逃げなかったの?」「どうして言わなかったの?」など、子どもを責めているように聞こえる尋ね方は避けます。
また、嫌なときには「嫌だ」と言ってよいこと、その場から離れてよいこと、信頼できる大人へ話してよいことを、普段から伝えておきましょう。
相談できる相手は、保護者だけとは限りません。家族や親戚、園や学校の先生、医師や看護師など、子どもが相談できそうな人を一緒に確認しておくこともできます。
日ごろから小さな疑問や気持ちを否定せずに聞くことは、子どもが困ったときに相談しやすい関係をつくる一助になります。
ただし、子どもが話せない事情はさまざまです。話せなかったとしても、子どもに責任はありません。
性教育は、知識を教えることだけではありません。
子どもの話に耳を傾け、「あなたの気持ちを話していいんだよ」と伝える毎日のコミュニケーションも、その一部なのです。
「もっと早く知っていれば」という経験を、次の世代へ

朝倉さんが現在の活動を始める背景には、前職で予防医療に関わる仕事に携わった経験があるといいます。
その経験を通して、体調の変化を治療が必要になってから考えるだけでなく、日ごろから自分の体の状態に関心を持ち、気になることがあれば健診や医療機関につなげていくことの大切さを実感したそうです。
一方で、朝倉さん自身も、不妊治療やデリケートゾーンのトラブルを経験しています。
自分自身が女性でありながら、女性の体について知らないことがたくさんあった。もっと早く知る機会があればよかった――。
その実感が、現在のフェムケアや性教育の活動につながっています。
フェムケアサロンで女性たちの悩みに寄り添うなかでは、家族や仕事を優先し、自分のことを後回しにしている人が多いことにも気づいたそうです。
誰かのために毎日を懸命に過ごしているうちに、自分の心や体の声を聞く時間がなくなってしまう。
朝倉さんは、そんな女性たちへ、自分の体を知ることは、自分を大切にすることにつながると伝えています。
それは大人の女性だけではなく、これから成長していく子どもたちにも届けたいメッセージです。
子どものころから心と体について知る機会があれば、自分の変化や違和感に気づき、必要なときに誰かへ相談するための一つの土台になります。
フェムケアを、日本の文化へ
朝倉さんは現在、「フェムケアを日本の文化にしたい」という想いのもと、尾州フェムテック協会の活動に取り組んでいます。
尾州フェムテック協会は、フェムケアを企業の福利厚生として導入するためのコンサルティング、医療従事者とともに行うフェムケアの啓発、性教育の講演などを、主な活動として掲げています。これらの活動内容は、一宮市の市民活動ポータルにも掲載されています。
また、2026年度の一宮市市民活動サポート補助金では、同協会によるフェムテック講演「一生愛し愛される私へ」が採択されています。地域課題の解決を目指す公益活動として、専門家を招いた講演会を年3回開催する予定で、今回紹介する親子向けイベントはその第1回です。
親も子どもも、一緒に学べる機会を
性教育について「大切だとは思うけれど、自分だけで教えるのは難しい」と感じる人もいるでしょう。
そんなときは、親子向けの講座や、専門的な知識を持つ人から学べる場を利用する方法もあります。
朝倉さんたちは、親子で心と体について学べるイベントを予定しています。
イベントでは、助産師の方々から、心と体を大切にすることについて親子で学ぶ予定です。
親が一人で正しい答えを用意するのではなく、子どもと同じ場所で話を聞き、帰宅してから一緒に考える。その体験が、家庭で心や体について話していくための最初の一歩になるかもしれません。
親子で学ぶ性教育イベント
- 日時:2026年8月27日(木)10:00~11:00
- 会場:一宮市市民活動支援センター内 会議室A・B
- 対象:2歳から小学校低学年までの子どもと保護者(保護者同伴)
- 参加費:無料
- 定員:50名
- 講師:山中助産師・梶野助産師
- 主催:尾州フェムテック協会
- 申込方法:下記チラシ内のQRコード(公式LINE)から

まずは「話してもいい」と伝えることから
性教育に、一つだけの正解があるわけではありません。
家庭によって考え方は異なり、子どもの年齢や成長によって、必要な言葉も変わっていきます。
最初から完璧に話そうとしなくても大丈夫です。
子どもの疑問をごまかさず、今伝えられる言葉で答えること。分からないことは一緒に学ぶこと。そして、どんなことでも話してよいと伝えること。
そうした毎日の小さなやり取りが、子どもにとって「自分は大切にされている」と感じられる時間になっていくのではないでしょうか。
性教育は、自分を守るためだけのものではなく、自分と相手の心や体を大切にするためのもの。
親子で心と体について話すことから、これからを生きる子どもたちへ、愛と安心を手渡していきませんか。
自身の不妊治療やデリケートゾーンのトラブルをきっかけに、女性が自分の体について知るための活動を始める。現在は「フェムケアを日本の文化にしたい」という想いのもと、尾州フェムテック協会の活動を通じ、フェムケアの啓発や性教育の講演などに取り組んでいる。
※本記事の一般的な性教育・子どもの安全に関する説明は、こども家庭庁「乳幼児期の性に関する情報提供 手引き」、文部科学省「生命(いのち)の安全教育 指導の手引き」、ユネスコほか「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」などを参考に、事実確認を行っています。
